稼働率100%は正義か?|ものづくりのイデア 全編7分45秒。工場と数値は説明用の架空設定。 00:00 改善したはずなのに 主人公:よし、昨日も旋削工程の設備使用率100%達成! 主人公:段取りの見直しから始めて、やっとここまで来たなあ。 主人公:加工数も以前は1日60個くらいだったのが、今では90個近くまで増えたし。 主人公:さて、完成数のほうはどうかな? 主人公:……あれ? 主人公:なんか、あんまり変わってないな……。 主人公:えっ、平均60個? 旋削工程の加工数は増えてるのに、なんで仕上げの研削工程は増えてないんだ? 現場担当者:すみません。旋削工程から来るシャフトの件なんですけど……。 主人公:あ、加工数増えましたよね! どうですか? 現場担当者:いや、それが困ってまして。研削待ちのロットが、どんどん増えてるんですよ。 現場担当者:置き場が足りなくて、いったん別の場所へ運んでるんです。 現場担当者:で、必要になったらまた取りに行って。ロットの順番も確認しないといけないし……。 現場担当者:正直、前より手間が増えてるんですよね。 主人公:えっ……。加工数を増やしたのに? 主人公:こんなに溜まってたのか……。 師匠:ずいぶん忙しそうな工場だね。 主人公:そうなんです。設備をもっと動かせるように改善したんですが、なぜか現場から苦情が出ていて……。 師匠:ふむ。君は何を良くしたかったのかね? 主人公:生産性です。設備の稼働率を上げれば、工場全体の生産量も増えると思っていました。 師匠:なるほど。では、君が上げた『稼働率』とは、そもそも何を表しているのだろう? 01:47 何を100%にしたのか? 弟子:まず、言葉を整理しましょう。 弟子:この工場が稼働率と呼んでいたのは、設備使用率。計画した時間のうち、実際に加工していた時間の割合です。 弟子:一方、工程負荷率は、工程が処理できる量に対して、どれだけの仕事を投入しているか。 弟子:そして可動率は、設備が必要なときに正常に動けるかを表す指標です。 主人公:同じ稼働率でも、何を測っているかで意味が違うんですね。 弟子:言葉の使い方は工場によっても違います。だから、分母と分子を確認することが大事なんです。 弟子:そして今の問題を考えるには、設備使用率だけでなく、工程全体の流れを見る必要があります。 02:41 増えた30個はどこへ? 弟子:旋削工程は、1日何個加工していますか? 主人公:最近は平均90個くらいです。 弟子:では、研削工程は? 主人公:平均60個です。 主人公:あっ、そっか。研削工程で処理しきれない30個が毎日残るのか。 弟子:そうです。この状態が続くと、5日間で追加の仕掛品は約150個になります。 弟子:研削工程が工場全体の生産量を制約する、ボトルネックになっているんです。 主人公:僕が旋削工程の加工量だけを増やしたから、後工程にどんどん仕掛品が溜まっていたんですね。 師匠:では、次は何を改善するのかな? 03:30 投入調整で滞留を解消 主人公:まずは旋削工程への投入を減らして、溜まった仕掛品を研削工程で消化しましょう。 主人公:それから、研削工程が必要とする量に合わせて、旋削工程の生産を調整します。 現場担当者:助かります。ロットの置き場や移動の手間が減りました。 主人公:完成数は変わってないのに、工場の中のムダが減った……。 弟子:ただし、ロットがまとめて到着するような変動がある場合には、平均投入量を合わせるだけでは不十分です。 弟子:必要な仕掛品や能力の余裕を持ちながら、流れを安定させることが大切なんです。 師匠:よい経験をしたね。では、次の工場へ行ってみようか。 04:19 同期ラインで同じ方法を試す 主人公:今度は自動車の組立ラインですね。 主人公:このライン、時間稼働率が100%ですね。 主人公:前の工場では、設備を動かしすぎないようにしたら改善しました。 主人公:ここでも少し稼働を減らして、余裕を作りましょう! 主人公:あれ? 6台も減ってる……。 師匠:君は、何のためにラインを止めたのかね? 04:51 作業負荷と設備の可動率 弟子:このラインでは60秒ごとに1台ずつ流します。 弟子:例えば、ある工程の標準作業時間が50秒なら、タクトに対する作業負荷率は約83%です。 弟子:でも、設備が必要なときに正常に動ける割合は、100%を目指せます。 主人公:作業時間に余裕を持たせることと、ラインを止めることは別なんですね。 弟子:その通りです。前の工場では、後工程の能力を超える投入が問題でした。 弟子:今回は、生産するペースを落とす理由がないのに、ラインを停止させてしまったんです。 05:35 作業再配分と異常時停止 主人公:じゃあ、このラインでは何を改善すればいいんでしょう? 弟子:例えば、車種によって作業時間が変わることがあります。 主人公:この車種だけ、5秒間に合わない……。 弟子:そこで作業の再配分や応援、作業方法の改善を検討するんです。 主人公:なるほど、全体を止めるのではなく、作業の偏りを減らすんですね。 弟子:それに、異常時には止めることも大切です。トヨタ生産方式の自働化では、異常を検知したら停止し、不良の流出を防ぐことを重視しています。 主人公:ただ動かし続けるのではなく、必要なときに動けて、異常があれば止められるラインを目指すんですね。 06:25 在庫・能力・時間で変動を吸収 師匠:最初の工場では仕掛品が増え、次の工場では作業遅れが問題になった。共通していることは何だろう? 主人公:どちらも、予定どおりに進まないことがある……。ばらつきですね。 弟子:Factory Physicsでは、変動を吸収する代表的な手段として、在庫・能力・時間が整理されています。 弟子:仕掛品で供給を安定させる。設備に能力余裕を持たせる。あるいは待ち時間を許容する。 師匠:そのすべてを無駄だと取り除けば、どうなるだろうね? 主人公:ばらつきを吸収できなくなって、工場が不安定になります。 師匠:君は最初、稼働率を上げればよいと考えた。次は、下げればよいと考えた。今はどうかな? 主人公:稼働率という数字だけを追っても、正しい改善にはならないと思います。 主人公:大切なのは、何を測っていて、何が工場全体を制約しているかを知ること。 主人公:そして、必要な製品を安定してつくれる状態を目指すことなんですね。 師匠:では、君の工場は何のために動いているのだろうね?